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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

どうなっても、あいつの宿に逆寄せをして、目に物見せてやらなけりゃあならない。

朝風呂にはいって、あっさりと隠し化粧をすると、軽く朝げをすまして、例の町女房にしては、少し小意気だというみなり、お高祖頭巾に、顔をかくして、出かけてゆく先きは山ノ宿の方角だ。

芝居町で、出方にいくらかつかませれば、役者たちについての、表立ったことはじきに何でも判って来る。

菊之丞、雪之丞の、切っても切れぬ親子のような師弟が、一緒に棲んでいる宿屋の名を聴きだし、ちゃあんと、日のある中に、所もつき止めると、夜更けまで用のないからだ。

――あいつの舞台を、もう一度見てやろうか知ら!

と、つぶやいたが、ちょいと癪にさわる気がして、中村座のつい前の、結城座で、あやつりを見たが、演しものが、何と「女熊坂血潮の紅葉」――

――畜生め、昔の女熊坂は、死に際に、恋人の手にかかって、女々しく泣いて懺悔をしたかも知れねえが、このお初は、そんな性とは丸っきり違うんだ。おいらあ、三尺高い木の上から、笑って世の中を見返すだけの度胸はちゃんと持ち合せているんだぜ。人をつけ、馬鹿馬鹿しい。

あやつりを出て、どこをどうさまよって、時を消したか、すんなりとしたお高祖頭巾の姿が、影のように、まぼろしのように、山ノ宿の、宿屋町にあらわれたのは真夜中すぎ――