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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
芝居者相手の雑用宿のいじけた店が、二、三軒並んでいるのを、素通りして、意気で、品のいい「花村」というはたご屋の前に、ほんのしばし、立ち止って行灯を眺め、二階を見上げたお初、ニッと、目で笑った。
――ふうむ、もうかえっていやがるな。待っておいでよ。おめえの枕上に、ついじきに立ってやるから、――
こうした家の、裏口を、あけ閉てすることなんぞは、お初に取っては、苦でもない。まるで風が隙を潜るようなものだ。
何分、朝の夙い役者を泊めている家、すっかり寝しずまっていることゆえ、裏梯子を、かまわず上り下りしたところで、見とがめる目も耳もあるはずがなかった。
――あいつ等め、表二階を打っとおして借りているってはなしだっけ。
と、お初は、裏梯子の、上りつめたところで立ち止まったが、ふと、その表二階の、すっかり灯の消えた部屋部屋の、一番奥の一間に、かすかにあかりが差しているのを認めた。
――おや、あすこだな、起きているな。そういえば、何だか、もそもそ、話しごえがしていやがる。厄介な――
お初は、すうっと、薄暗い廊下を、通り魔のように抜けて、その部屋の前まで行って、立ち止まった。