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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
七
七
芝居茶屋の奥ざしき、女客と役者の出逢いのために出来たような小間には、手を鳴らしてもなかなか女中さえはいっては来ないような工合になっていた。
その、しいんとした、静かな部屋に、珍しく襟に顎を差し込んで、うなだれ勝ちな、殊勝なすがたをしているお初、やがて、小屋の方で大喜利の鳴物、しゃぎりの響きが妙な淋しいようなにぎわしさで聴えると、唆られたように顔を上げた。
――おや、もう、閉場るようだが――
鬢にさわって見たり、襟元を気にして見たりしているうちに、間もなく、廊下がかすかに鳴って、女中の案内で現れて来たのが、朱いろの襟をのぞかせた黒小袖に、金緞子の帯、短い小紋の羽織――舞台化粧を落したばかりの雪之丞だ。
「ようこそ――さぞいそがしいからだでしょうに――」
お初はいくらか上釣ったような調子で迎える。
「長うはお目にかかれませぬが、折角のお招きゆえ――」
女中は、ほんの形ばかりの酒肴を並べると、去ってしまった。
雪之丞が、まるで容子を変えて膝に手を、屹ッとお初を見上げたが、
「いつぞやは、思わぬところで逢いましたな?」
「おかげさんで、あの折は――」
と、微笑したお初、もう、心の惑乱を征服した体で、猪口を取ると、