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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

六

起ち上る雪之丞を、師匠は、室の出口まで見送った。

雪之丞は、供の男を従えて、外へ出る。

晩秋の夜気は、しんと沁み通るようだ。無月なのに星の光りが、一層鮮かに、冷たい風が、あるか無きかに流れている。

供男は、供待ちで、これも一口馳走になったと見えて、浪人に脅かされて以来、びくつききっていた、来る途中の萎れ方は何処へやら、元気な声で、

「この分では、初日二日目、三日目――大した人気にきまっておりますぜ。何しろ初上りの親方衆の、顔見世と言うのだから、座が割れっ返る程、大入り請合いだ」

「そうなれば宜しいが、――何分始めての御当地故、入りばかり気になって、――」

雪之丞は謙遜深く、そんな相槌を打ちながら、さしかかったのが、横町を行きつくして、御蔵前通りの、暗く淋しい曲り角――。

すうっと、ある肌冷たさが、雪之丞の、白くほっそりとした首筋に、感じられた。と思う刹那、闇をつん裂いて、無言の烈刃が、びゅうと、肩口に落ちて来た。

ぎゃっ、とおめいて、遁げ出す供男。雪之丞は、ひらりと躱すと、じっと身をそばめて、気配を窺った。

六

闇を透して、相手をうかがう、雪之丞の細っそりした右手はいつか、帯の間にはいって、懐剣の柄にかかっていた。