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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、言うところを、先棒も近づいて、
「犬を散らして上げた御礼というのじゃあねえが、どうだ、安く、御乗んなすって――」
「まあ、穿ものもなにもねえじゃあありませんか――」
と、後棒。
「へ、へ、へ、この夜更けに、夫婦喧嘩と出なすって、飛び出して来やしたのかい? 犬も食わねえというに、あいつ等あ、馬鹿に食い意地の張った犬どもと見える――へ、へ、へ、どっちみち、お里へなり、いろ男のところへなり、おいでになるところでげしょう――へ、へ、へ、そのなりで、夜みちを歩いたら、自身番が、只はとおしゃせんぜ――へ、へ、へ――おのんなすって」
浪路も、いくらか気がしずまると、どうせ指してゆく、浅草山ノ宿とかまで、歩いて行けるものでもないと思った。
「はい、のせて、貰いましょう」
一五
「おい、ねえさんが、乗ってくださるとよ」
と、先棒、
「どちらまででござんすね?」
垂れを下ろそうとしながら訊く。
「浅草、山ノ宿とやらまで――」
「へえ――」
先棒が、にやりと笑ったが、
「とやらまで――だとよ、さあ、いそごうぜ」
顎をしゃくったが、その顎の長さ――この寒気に、尻ッ切れ半纒一枚、二の腕から、胸から、太股一めん、青黒い渦のようなものが見えるのは、定めて雲竜の文身でもしているらしく、白目がぎょろついている男だ。