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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「えッ! おまえさんが、お酒を呑まぬ? まあ、ほ、ほ、ほ――法印、桝からでなくては、呑まぬのかい?」

「いや、やめたんだ?」

と、モゾリと答える。

「おまえが、お酒をやめたッて!」

と、心から、びっくりした顔。

「ほんとうだよ、正真とも!」

と、法印は、いくらか力無げに、

「おらあ、酒を呑みゃあ、きッと、やりそくなう――いや、もう、大した間違えをやらかしたんだ。それで、般若湯はおことわりにしたのよ。だから、呑まねえ」

「へえ、そりゃあ又――」

と、お三婆は、持った銚子で、自分の杯に充して、

「じゃあ、あたしは手酌でいただくがね――それはそれとして、法印さん、このお三婆のことは、あの奴等をあつかうようにはなさるまいね?」

「あの奴等をあつかうようにとは?」

「丑や、為は、屋外へ、うっちゃられたが?」

「だって、あいつ等あ、雲助じゃあねえか? おめえは、この宿屋の主人だ――どうして、おれが、あんなことをするはずがあるものか?」

「まあ、うれしい!」

と、お三、とん狂な調子で、叫んで、

「それでこそ、さすが立派なお人だというものだよ。悪党も、大きくなりゃあ、仁義を知らなけりゃあね――」