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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

成る程、ふっと噂ばなしを、小耳にはさんだのを思い出すが、貴様も元は、武家出だそうだな? 剣術は、何処で習った?」

と、平馬は最早、全く、害意のない調子で訊ねかける。

「御冗談でしょう――」

と、闇太郎は気軽にいって、

「こんな場合に、身の上調べは恐れ入りますね。お前さんも、立派なお武家――一旦、あっしを、見逃そうと仰言った以上は、もう綺麗さっぱりといざこざなしに、放してやっておくんなさい」

「いや、いや、そうも罷り成らぬ」

と、平馬は、真面目になって、

「実は拙者、貴様の様子を見ているうちにこの儘、別れたくなくなって来た」

「ほほう、そうすると、どうなさろうと仰言るんで――?」

「貴様のような、世にも珍しい才能と、度胸とを持った奴、泥棒渡世にして置くのが惜しくなった」

闇太郎は、そういう平馬の顔を、チラリと見詰めて、嘲むように笑った。

「御酔狂も、いい加減になさいましよ。人間一度染ったら、もう二度と元の白地にゃあ、なれねえものなんだ。旦那も、そんな仏くさい事をいうようじゃあ、なかなか一流は立て抜けねえね。聴けば、今日までは、お師匠さんがあったが、今夜限り、自流で行くのだとか仰言ったが――」