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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
蜂の巣
一
蜂の巣
一
太鼓櫓の棟木の陰へ、すいすいと吸いこまれるように、蜂がかくれてゆく、またぶーんと飛び出してゆくのもある。
ここの太鼓もずいぶん久しい年代を経ているらしい。鋲の一粒一粒が赤く錆びているのでもわかる。四方の太柱でさえ風化して、老人の筋骨のように、あらあらと木目のすじが露出している。要するに、この御着の城と同時に建った物であることは疑いもない。
「……あ、蜂の巣か」
官兵衛は眼をさました。とたんに自分の襟くびをつよくたたいて、廂の裏を赤い眼で見あげた。
ゆうべから彼は寝ていない。一睡のひまを偸むこともできなかったのである。そこでさっきから独りここへ逃避して、柱の下に背を凭せかけたまま、よいこころもちで居眠っていたのであった。
本丸の方からは見えないし、夏の陽ざしもぐあいよく四囲の青葉が遮ってくれている。それに城内でもここの位置は最も高いので、中国山脈の脊梁から吹いてくるそよ風が鬢の毛や、懐を弄って、一刻の午睡をむさぼるには寔に絶好な場所だった。
「これはいかん、だいぶ食われた。……蜂までがおれを寝かさんな」
官兵衛はひとり苦笑して、襟くびや瞼をしきりに手でこすっていた。