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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一六

雪之丞は、さては平馬が、すでに何か耳に入れたな――と、悟ったが、さあらぬ体で、

「と、おおせられますと?」

と、ほほえましく、

「舞台の芸さえ未熟もの――その外に何の道を、習い覚えるひまとて、あるはずがござりませぬ」

「いやいや、そなた、武士の表芸にも、練達のものと聴いた。三斎、実は、ひそかに感心いたしおったのだ」

老人がそういうと、座中の人々の間では、一そう感歎の囁きがかわされる。

「脇田門では、一、二を争うものとうけたまわった。いずれ日を期して、その方面の技も見せて貰いたいな。それにしても、門倉を呼べ、あれによういうて、何かわけありげな太夫と和らぎ合せたいと、わしは思う――門倉を呼べ」

と、三斎は、あたりにいった。

一六

女中たちが、二人ばかりで、平馬を探しに出かけたが、間もなくいくらかこめかみのあたりを青くした剣客が、広間にはいって来て、末座に手を突いて、

「中座をいたし、はなはだ失礼つかまつりました。ちといただき過ぎたよう存じまして――」

「よい、よい」

と、三斎は、明るくうなずいて、

「ちと、そちに訊ねたいことがあってな、わざと呼びにつかわしたが――」