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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、さもさも感に堪えたように、いって見せて、一段と声を低くし、
「だが、のう、雪之丞殿。それは十分、理屈だが、ものにはすべて、裏がある。相手が普通の娘だとか、後家だとか、いうような者どもなら、それは、そなたの、名のために、断わりをいうもいいであろうなれど、土部三斎様といえば、何分、当時、大江戸で、飛ぶ鳥を落す勢い。その御威勢の半分は、当の、あの、浪路さまを、大奥にさし出しているからだとさえ、いわれているのじゃ。そこを、よう考えたら、そなたも、日頃の心がけを、今夜だけは忘れても、損はないように思われるが――」
雪之丞は、三郎兵衛が、例の悪狡い眼を細めるようにして、こんな事を、くどくどと述べたてるのを聞いているうちに、だんだん気持が変って来た。
――なる程、ものは考えようじゃ。相手が土部三斎の娘の、浪路であればこそ、却って、ここは、いつもの気持を捨て、側に近づく用があるかも知れぬ。わしは、今まで、恨みを晴らすに、太刀、刀を使おうとばかり思うていた。だが、それでは存分の、念ばらしが出来る筈がない。世間で、女子にもまさるとか、たたえてくれる姿、形に産みつけて下されたも御両親――その御両親の御無念を、おはらし申すに、縹緻を使ったとて、何が悪かろう。