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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「それでも、それじゃあ殿様から、たしかに宿までお送りもうせと、いいつけられた役目がすみません」
と、先棒がかぶりを振ったが、
「いいえ、御前様の方へは、宿まで送り届けたといっておいてくだされば、それで済んでしまいます。ほんの僅少なものですけれど」
小さく包んだものを、早くも大きな掌に握らせてしまった。
「後棒、それじゃ太夫さんのお言葉にしたがったほうが――」
「その方が気持がいいとおっしゃるなら――」
一人が揃えた雪駄に、内端な白足袋の足がかかる。
「じゃあ、気をつけてお出でなすって」
「御苦労さん」
そこで駕籠にわかれて、二人連れになった雪之丞、闇太郎。河岸通りを北へ千束池へほど近い、田圃つづきの方角さして、急ぐでもなく歩きはじめた。
闇太郎はさびしい田圃道に出ると、
「太夫さん、寒かありませんか? この辺も、夏場は蛙がたくさん鳴いて、なかなか風情があるのだが、これからさきは、空っ風の吹き通しで、あまりほめた場所じゃあなくなりますよ」
「いいえ、わたしは先刻も申した通り、賑やかな渡世をしていながら、どうもさびしい性分、ことさら御当地にまいってからは、ただもう御繁昌をながめるだけで、上ずって心がおちつかず困っておりましたところ、このような場所こそ、一番保養になる気がいたします」