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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

六

「そういってくださりゃあ、あっしも鼻が高けえというものさ。そら、あすこにこんもりした森があって、そばに小家が二、三軒あるでしょう、あの右のはずれが、あっしの御殿でさあ」

闇太郎は、ひどく上機嫌で、こんなことをいいながら、雪之丞に足許を気をつけさせながら、くだんの一ツ家の方へと、導いてゆくのだった。

いよいよ小家にたどりつく。

「女房ども、只今もどったぞ――と、いうなあ、実は嘘で、猫ッ子一疋いませんのさ」

そんな戯言をいいつつ闇太郎、入口の戸をがたびしいわせはじめた。

六

建付けのわるい戸を、がたびし開けると、振りかえって、

「いま灯りをつけるから、ちょっと待っておくんなせえ」

と、いった闇太郎、室内にはいって火鉢を掻きたてて、付木に火をうつすと、すぐに行灯がともされた。ぱあっと上りはなの一間があかるくなる。

「さあ、どうぞ、おはいり」

雪之丞は長旅にゆきくれた旅人が、野っ原の一ツ家にでもはいってゆく時のような気持で、

「ごめんくださりませ」

と挨拶して、土間に立つ。

家は三間ほどの小ぢんまりした建てかたで、男手ひとつだというのに、さっぱりと掃除もゆきとどき、長火鉢に茶だんす――その長火鉢には、ちゃんと火が埋けてあり、鉄瓶も炭をたせば、すぐに煮えくるほどになっている。