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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
こりゃあ、もうよんどころない――うちへ帰って、おふくろに、何とか泣きつく外にない――友だち一人の、一命にかかわることだ――この決心がつくまでには、ずいぶん苦しんだのだがね――」
闇太郎の顔に、苦笑がうかんだ。
「あの頃の、おれのように、捨て身になり切っていても、人間って奴あ、やっぱり人間らしい気持がのこっているものでネ。生みの親、親身の兄弟なんてものに、どこかこころが引ッかかっていると見える――おれは、弁公を、合壁に頼んで置いて、のこのこ江戸まで引ッ返したのさ。秋ももう大分深いころで、左様さ、ちょうど今日このごろの季節だったが――」
雁が、北の方へ、浅草田圃の、闇の夜ぞらを、荒々しく鳴いてすぎた。
主人も客も、その声のひびきが、遠ざかってゆくまで、黙り合っていた。
若い盗賊はしんみり聴き入っている女形に、
「風邪でもひかせちゃあ済まねえ。どてらを掛けて上げようね――」
と言って、立ち上って、押入れから、南部柄の丹前を取り出すと、ふうわりと、細そりした肩先にかけてやって、火鉢に炭をつぎ足したが、
「さて、久しぶり江戸入りをしたおれは、さすが、日の高いうちには、うちの近所へは近よれなかったので、日ぐれまぐれを狙って舟町の生家の背戸の方へ、まるでコソ泥のように、びくびくもので忍び寄ったわけさ。