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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「いいえ、とんと――」
と、雪之丞は、やさしく、小首をかしげて見せる。
闇太郎は、いくらか重い口調になって、
「それはね、実は系図ものなのさ。ある強慾な紅毛流の医者の家に、ちょいとお見舞申したとき、さも大事そうに蔵ってあったので、序でに持って来て置いたのだが、まあ、なかなか珍しい効能があるのだ。怖ろしいほど、利く奴サ」
「どんな病気に利くのでございましょう?」
「病気? いんや、病気とはあべこべに、達者な奴に利く薬なのだ」
「まあ!」
と、雪之丞が、美しい目をみはる。
「まあ、その薬をたった一つぶ、そっと誰かに飲ましてごらんなせえ。ついじきにこくりこくり居睡りをはじめて、叩いたって、ぶったって、目をさましっこはねえんだよ。飲ませる間がなかったら、その薬を今度はふた粒、莨盆の火入れの中にでもくべて御ろうじ、たちまち一座がその場で睡ってしまうんだ」
「ホ、ホウ、じゃあ、ねむり薬で――」
「ねむり薬も、ねむり薬、こんな利くのは天下に類がねえ――しかも、こっちは、明礬をしめした布で鼻をふさいでいれば、いっかな薬をうけつけずに済むというのさ。おれが、実地をためしているのだから、間違いはねえのだ」