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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「御存知か? なかなか大きゅう店をしていられる方じゃ。わしなぞは、まだ足下にも及ばぬ」

長崎屋の表情に、あらわに嫉視のようなものがうかぶのを、雪之丞は見のがさなかった。

「実はな、わしと、広海屋、心を合せて、江戸中の大商人と張り合い、お城の御用達をうけたまわろうともくろんでいるのでな――」

と、悪ごすい商人は声を落して、

「そこで、そなたを見込んで、一ツ力が借りたいと考えているわけ――お城のことは、浪路どのの口入をうけるが便宜――その辺のことを、今夜二人で、くわしゅうそなたに頼み込みたい仕儀なのじゃ。もっとも、そなたとしても、わしが、どれほどそなたに贔屓かを知っていてくれるはずだ。平たくいえば、広海屋さんより、わしの方へ、そなたも肩入れはしてくれるであろうと、それはもう安心し切っているのだ」

楽屋内をもはばからず、ひそひそと、こんなことをいい出す長崎屋の心の中は、今迄のゆきがかりで、広海屋とどこまでも同体せねばならず、また二人心を合わせた方が、望みを果すに便利だとは思うものの、この場合、何とかして、この先輩同業を乗り越してやりたい野心を捨てることも出来ぬ。