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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
ところが、広海屋一派の商人たちの方では、西国に手持ちの米が多分にあるで、利害が反対になっている――が、今のところ、広海屋も、目前の利に欺かれて、却々売り叩こうともせず、もっともっと値の出るのを待っているらしい。が、ここで、そなたが、普留那の弁口を揮うて、西の米をどしどし売らせたなら、米価は、一どきに低落し、長崎屋方は、総くずれになるは必定だ。しかも、江戸の人気は、一時、広海屋方に集まって、あれこそ、廉い米を入れてくれた恩人と持て囃されるであろうよ。一人は泣き、一人はよろこぶ――」
「お言葉ではござりますが、それでは、長崎屋をくるしめることは出来ても、広海屋は、旭の勢いとなって、さぞよろこぶことでござりましょうが――」
と、雪之丞が、進まぬげに言うと、
「そこが、若いと申すのだ」
と、孤軒がおさえて、
「落ち目に蹴落された長崎屋は、牙を剥いて噛みつくに相違ないのだ。あれたちはこれまで、あらゆる慾の世界で、合体して働いて来た、狼同士、二人とも泥の腸について知り抜いているのだ。それがいがみ合いはじめたら、そなたはまず、側で手を拍いていてもよいということになるであろう――そなたが、最後の刺止だけ刺してやればいい」