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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「御病気とうけたまわりまして、どんなに驚きましたことか――なれど、お姿をおがみまして幾らか安心つかまつりました」

老女が去ったので、浪路は、ぐっと態を変えていた。

「まあ! 何ということをいうのであろ。何という他人行儀なことを!」

怨じて、一度、顔をそむけるようにして、激しく、流眄を送って、

「わたしの気持は、この前の時から、ようく知っていてくださるに――この病気にしても」

「そのようなつもりで申したのでは――折角うかがって、御意にそむいては――それなら、おいとまいたした方が――」

雪之丞も、つんとしたように、わざと冷たくいった。

「いや、いや」

と、将軍の寵姫は、一俳優の前で、だだっ子らしい愛らしさで激しくかぶりを振って、

「おおこりになった? それなら許して――わたくし、でも、そなたの他人行儀が、苦しくって――」

彼女は、膝の上に、綾の寝巻の袖を重ねるようにして、頭を下げて見せた。

「気に障えたら、詫びます、あやまります――今夜こそ、ゆっくりしていて――頼みますぞえ」

女の童さえ、黄金瓶に、銀の盃を二つ添えたのを、そこに差し置いたまま去ってしまった。

もう二人は、何を言っても、してもよかった。