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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「おや、では、泥棒だね――しかも、女子――」

引ッぱずされて、よろめく足をふみこたえて、ビュッ、ビュッと、切ってかかるのを、すっと隙につけ入って、利き腕を逆に取った、白い顔、匂いの美い女装の男性。

「騒ぐと人が来ますぞ。わしは、当家に恩のあるものでもない――見のがすほどに去ぬるがいい――」

裏庭の暗がりを、肉体のしなやかさにくらべて、驚くべき膂力を持った不思議な人間は、ぐいぐいと、お初を塀の方へ曳いてゆく。

「なら、人の仕事の、邪魔をせずともいいだろうに――こんちくしょう!」

お初はもがいている。

「もっともじゃ、じゃが、わしとても、この家から、泥棒を追いはらったとなると、鼻が高いゆえ――ほ、ほ、ほ」

女装の男は、妙な笑いを笑った。

「一てえ、おめえは何だ? 女見てえななりをしやがって――」

塀際に近く、お初が呻く。

「わしが何だと不思議がるより、こちらが倍もおどろいたわ。江戸には、大した女泥棒がいるものじゃな――さすが、お膝下だ――」

そして、ふッと、相手が、びっくりしたように――

「おやッ、おまえは、江戸下りの――中村座の!」

と、叫ぶように、何で気がついたかそう言うのを、おッかぶせて、