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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一五

「そのようなこと、どうでもよい。早う逃げなされ! わしが、今、騒ぎ出しますぞ!」

塀の方に、突っぱなすようにした白面女装――裂くような声で、

「泥棒でござります! 盗賊でござります!」

バタバタと、庭下駄の音をひびかせて、高く叫び出した。

そのときには、もう、軽わざお初、ひらりと塀を越えて、影のように、どことなく消えている。

「泥棒でござります! 早う、お出合い下さい!」

ガタガタと、家中の戸が開く音がして、六尺棒や、木刀を押ッ取った若党、中間がかけ出して来る。

「おお、雪之丞どのか! して、泥棒は!」

「太夫、盗賊めは?」

口々に、提灯で、雪之丞の艶姿を振り照らしながら呼びかけた。

一五

雪之丞は、いかにも申しわけ無げに、若党たちに挨拶するのだった。

「お手洗場のお窓から、ふと眺めますと、黒い影が見えましたので、みなさまに、先きにお知らせせずに、飛び出しましたものゆえ、むこうも狽てて、逃げ去りました。差し出たわざをいたして、折角捕えることが出来たものを、取りにがし申しわけござりませぬ」

「いやいや、見つけ下さらねば、害をうけたかも知れなんだ――捕えると捕えぬとは二の次」