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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「余計なこと! 勝手なところをぞめいておいで――」
と、紙にひねったのを投げてやって、茶の間にはいって、ぴたりと、襖を閉ざしてしまった。
むく犬の吉、ペロリと舌を出して、
――だから、いわねえこっちゃあねえ――松枝町の角屋敷、なかなか七面倒な場所なんだ。出来ごころで、のぞいたって、そう易々、向うさまが出迎えちゃくれねえのだ。姐御も女は女、とかく、癇癪で、気短かで、やべえものさ。でも、引っかえして来てくれてよかった。
いろ気が薄くっていいというので、たった一人、側に置かれているむく犬、駄犬ほどには主人おもいだ。
――どれ、じゃあ、ひとつ、あいつらのつらでも見てくるかな。
裏口から、草履を突っかけて出ようとすると、婆やが、
「吉ッつぁん、あしたは、お湯にはいって、浄めてから帰っておくれよ。ほ、ほ、ほ」
気の利いた大年増だが、毒口は、生れつきだ。
その婆やが、小鍋立ての支度をしている頃、女あるじは、朱羅宇の長ぎせるを、白い指にはさんで、煙を行灯の灯に吹きつけるようにしながら、しきりに考え込んでいる。
――不思議なばけ物だねえ? あの女がた――ひとの利きうでを――匕首をつかんだ利きうでを、怖がりもせず掴みやあがったが、その力の強さ。