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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
――役者の身で――あんななまめかしい女がたの身で、聴けば、江戸名うての、武家町人を相手に、一身一命を賭けて敵討ちをもくろんでいるとは、何という殊勝なことであろう。そしてあの、おいらを捕まえたときの、騒がずあわてぬとりなし、役者を止めさせて、泥棒にしても押しも押されもされぬ人間だ。
と、そんな風に、すっかり感心してしまったのが、運のつきとでも云おうか、その晩以来、寝ても醒めても、どうしても忘れられないのが、雪之丞の艶すがたとなってしまった。
――ほんとうに、どうしたらいいのかねえ――おいらあ、生れてから、こんな気持にされたことははじめてだが――まさか、このおいらが、あんな者に恋わずらいをしているのだとは思われないけれど――
相変らず、長火鉢の前、婆やに、燗をつけさせて、猪口を口にしながら、癇性らしく、じれった巻きを、かんざしで、ぐいぐい掻きなぞして、
――だけれど、そういうもののおいらだって、まだ若いんだ。ときどき、男が恋しくなったって、お釈迦さまだって叱りゃしめえよ。なんなら、ひとつ、ぶッつかって見るか? くよくよ、物案じをしているのは、娘ッ子のしわざだ。