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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
を譲ろうとしたのが、原因とはなったが、そればかりで、こんなに憎悪を忘れかねるのは、彼自身にも不思議な位だ。
恐らく、この女にも見ぬほどの、たよたよしい、さも、無力にしか見えぬ、女がたが、舞台の芸の外に、かくも、神変幻妙な、武術の才を持っているのが、先天的な、異常な嫉妬を、平馬に感じさせてもいるのであろう。
――どうでも、今夜は斬るのだ! 殺さずには置かぬのだ!
彼は、心に、叫んで、最初の、独特な上段に構えたまま、
「やああ!」
と、誘う。
雪之丞も、つい今し、間柄をあしらったように、軽くは、動かぬ。
相変らず、沈めた構えで、真の変化が、相手に現れて来るのを待つ。
「でも、その生れぞくない、何て強いのだろうねえ」
稲積みの蔭で、お初の声は、嘲りから、だんだん讃歎に変りつつあるのだった。
「大刀を振りかぶった、お武家二人を相手にして、平気で戦うばかりか、見る間に一人の先生を、叩き倒したのはえらいもんだ。よう花村やあ――と、讃め言葉がほしいねえ――生憎と、田圃外じゃあ、おいら一人の見物で、物足りねえ」
お初は、大胆不敵だ。
「それにしても、じれってえなあ――お武家さん、そんな女形一人を、いつまで、持てあましているのかねえ――相手がもっと弱むしなら、このおいらが助勢に出てやるのだけれど、どうもあぶなくって近づけないよ」