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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一七
一七
こちらは――
例の細工場で、シュウ、シュウと、かすかな音を立てさせながら、まるで、一個の芸術家のごとく――いいえ、どんな技巧家より、もっともっと熱心に、小さい象牙の塊に、何やら、細かな図柄を彫り刻んでいた、闇太郎だ。
とんとんと、遠慮深く、戸が鳴って、やさしい声で、
「若し、お宅でござりますか? わたくしでござりますが――」
と、いうのが聴えると、ハッと、さすがに油断なく、あたりを屹と見まわすようにしたが、
「おッ! 太夫だな!」
と、叫ぶと、世にもうれしげな表情が、きりッとしたこの男の顔にうかぶ。
「あけますよ! 今すぐ!」
狽てたように、立ち上って、膝から、前かけを払い落すと、とっかわ、入口に出て行って、ガラリと開けて、
「思いがけない! こんな時刻に――一たい、どうした風の吹きまわしで――さあ、上っておくんなせえ」
細工場に導いて、行灯を掻き立てて、つくづく、雪之丞をみつめるようにしたが、急に、暗くなって、
「おや、太夫、お前さん、恒ならねえ、顔をしていなさるねえ――何があんなすったのか? さあ、すぐに話しておくんなさい」
闇太郎自身の面上にも、にわかに不安の影が射す。