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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「おや! お客さんかえ? 見なれねえ草履が――」

吉公が駆け出して、

「おお、姐はん、思いがけねえお客人で――」

「こんな夜中に、だれだえ!」

と、お初の声。

「それが、姐はん――全く思いがけねえお方で――まあ、顔を見て御覧じろ」

「厭に気をもたせるねえ――どなたがお越しだってえのさ?」

お高祖頭巾をとりながら、茶の間をのぞいたお初、行灯の光に、闇太郎の半面を、くっきりと見わけると、さすがにびっくりして、

「おや! まあ! 闇の字親分――」

闇太郎は、白い前歯をあらわして笑って、

「姐御、久しぶりだったな、急に逢いてえことがあって、お邪魔をしていやしたよ」

「まあ、ほんとうにお珍しい――親分が、こんなところへ出向いて下さるなんて――そんなら、途中で愚図愚図なんぞしているんじゃあなかったっけ」

お初は、長火鉢の前の、派手な友ぜんの座ぶとんにべたりと坐って、

「実はネ、ちっとばかしぐれはまな目になって、屋台で燗ざけをあおって来ましたのさ」

酒気をホーッと吐いて、彼女は艶に笑った。

二一

お初は、湯呑に素湯をついで、うまそうに飲んだが、気がついたように、

「おい、吉、一たい、てめえ、何をしていたんだねえ? 親分が、折角いらしったというのに、空ッ茶を上げて置くなんて――なんにも無くとも、一くち、差し上げなけりゃあ――」