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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

女中の、見ている前で、ふところから、大事そうに取り出して袱紗づつみ、それをほどいて、小さな、桐の箱を、雪之丞の前に置く。

明るい世界に顔を出すので、用心に用心を重ねている闇太郎の気持を察して、雪之丞も、手際よく受ける。

桐の小箱を取り上げて、中から、精巧な牙彫の根付を出して、じっと、灯にかざして、

「これは、まあ、結構に出来ましたな。上方へ戻っての、いい自慢ばなし――ほんに、この鷹のすがたは、生きているようでありますな」

「絵柄は、わたしも、随分と吟味いたしたつもりで――鷹は、百鳥のつわもの――一度見込んだ対手は、のがしっこがないといわれてますゆえ――」

して見ると、闇太郎、出入りの口実のために、出たら目の細工ものを持参したのではなく、とうから、雪之丞に贈ろうと、この鷹の根付を苦作していたのに相違ない――雪之丞、感謝のおもいを、一そう深めないわけにはいかぬ。

「縁起をかつぐ渡世柄――ありがたいお見立て――」

「こないだお訪ねのときも、実は、一生懸命、これを彫っておりましたわけ――」

と、いったが、闇太郎、女中が茶を進めて出て行ってしまうと、

「耳は?」

と、あたりを兼ねるようにして、囁くように訊ねた。