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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「え? 頼み? 何なりと――身に叶うことなら」
何でもなげに広海屋は答える。
「有りようは、広海屋さん、折角そなたが、上方から、江戸表まで廻漕なされた、五艘の米船――それを、大坂に引ッ返させなさるか、それとも、例の廉売り、投げ売りを思いとまって、わし達の手に渡してはいただけないか?」
長崎屋は、皺枯れた声で、思い入った調子で、こう言い切った。
広海屋は、あからめもせず、相手の顔を眺めた――むしろ、呆れたという表情で――
「長崎屋さん、少しばかり、それは無理な御注文だの」
「いかにも、無理は、よう知っています。そこを、何とか、御勘考なされて――」
長崎屋は、頭を下げて見せた。
広海屋は、首を振って、
「どうも、ほかのことなら、そなたとわしの仲、何ともしようが、今度のことばかりは、この広海屋も、損得を捨て、ただ人さまの為になろうとして、思い切っての大仕事――すでに、お上すじとのお約束もあり、こればかりは堪忍して貰いたい」
「では、おぬしは、年来の交誼を捨て、この長崎屋の、咽喉をおしめになるつもりだの?」
「何の、そんな、馬鹿らしいことが――」
と、広海屋はカラカラと笑って、