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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一三

「長崎屋さん、お互に、米穀のあきないにまで、手を出してはおれど、そなたも物産海産の方で、立派なのれんを持っていなさるお方――思惑の米商いが少しばかり痛手を負うたとて、世帯に何のかかわりがあるではなし――それに、今度の米の値上りでは、これまでに、たんまり儲けてしまわれている癖に――は、は、は、は、は」

長崎屋は、ぐっと、広海屋を睨めつづけた。

今まで、辛抱して、妙な座敷に坐りつづけていた芸者、末社は、いつかコソコソとはずして、広海屋買いなじみの太夫と、雪之丞とがいのこっただけだった。

広海屋の皮肉な笑がおと、長崎屋の憤りに充ちた顔とが、向け合わされたままでいた。

一三

「おぬしは、いろいろ言うてくれるがなあ、広海屋さん――」

長崎屋は、青ざめた泥焔を吐くように、呻くように言うのだ――限りない怨みをこめた目で、睨め上げながら、

「なるほど、わしは物産問屋のはしくれ、米が主なあきないではないけれど、商人は、ひともわれも同じこと、大がねを儲けるには、時には、思い切ったばくちを張らねばならぬ――折も折、関東一帯の大不作、これが三年もつづけば、飢饉も来ようかといわれている昨日今日、ここらで、一つ度胸をきめねばと、手一ぱい、米を買いしめ――どこまで、わしが乗り込んでいるかは、おぬしも知っていてくれると思ったがなあ――」