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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

さ、どうぞ、手を上げて下さい」

「それなら、広海屋さん、わしの願いを聴き入れて――」

「そなたと、わしの仲、そこまで申されるのを、押し切って否むのは、何とも心苦しいが、さっきにもいうとおり、上方米の、東まわしは、わしの一存のことではなく、実は、さる筋からの耳うちがあって、このまま、米の値を上げてゆくときは、世間が騒々しくなり、貧しい人達が、一揆さわぎを起さぬとも限らぬ――広海屋、そちは、幸い、上方に持米多きよし、思い切って御奉公せよ――とのお言葉――わしも、辛いが、よんどころなしの仕事――長崎屋さんに、今度のことで、ほんの僅か損をかけようとも、又の日で、何かでうめ合せもいたしましょう。この話だけは、まず打ち切りに願いますよ」

長崎屋の、噛みしめた下唇からは、血がにじんで来るかと思われた。

「ううむ」

と、唸って、

「そんなら、おぬしはどうあっても?」

ギリギリと、奥歯が鳴った。

「商売は、いわば戦さ、親子兄弟、敵になることもあるによッてな――」

広海屋は、平気で答えた。長崎屋は噛みつくような表情になって、

「広海屋さん、おぬしは、長崎以来のことを忘れたかな?」