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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

――あれは確かに、天心流。矢張り、あのお人だ――

彼の心の目に浮んだのは、当然門倉平馬の、あの青ざめた、顎の張った顔であったろう?

――何という浅ましいお人! お師匠さまが、何となく当てになさらなかったのも、お道理じゃ――

雪之丞は、そう心に呟きながら、懐剣に懐紙で拭いをかけて、鞘に収めると、供男の姿をあたりに探めたが、

「ほほ、――遁げ脚の速い和郎じゃ!」

と、口に出していって、不敵な微笑を唇元に浮べたが、しかしいつかまた、かすかな縦皺が、美しい眉根の間に蔭をつくった。

彼は、門倉平馬が、彼にとっては、仇敵の総本山であるような、土部駿河守の麾下に、新しく属しているということを、一松斎がわざわざ囁いてくれたのを思い出したのだ。

今夜こそ、平馬の一刀が、自分の生命を奪い損ね、まんまと敗衂の姿を見せたものの、決して油断のならぬ、技倆の持主であるということは、十分に知っている。彼は、自分の希望を成しとげるに、あらゆる意味で、大なる困難が横たわっていることを、改めて思わずにはいられなかった。

雪之丞は、しとしとと、夜道を、御蔵前通りを、駒形の方へ、歩を運ぶ。