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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「時世時節じゃ、屋形船にも、大根を積むとかいうからね――はい、御返盃!」
法印、茶碗は受けたが、もう、生憎、白丁は空だ。
お初は、空徳利を、振って、
「何だねえ、もうおつもりじゃあないか?」
よくまあ、こんなしたみ酒を呑ませに来た――けちな奴だ――と、いいたげな目つきだ。
「だって、一人で、さんざ飲んでから、お前を思い出したのだもの――」
と、いいわけするのを、
「でも、お坊さん、ちっとも酔ってはいないじゃないか――」
「種切れなんだ」
「つまらねえ――お坊さん、もう少しどうにかおしよ。あたしだって、生じっか口をしめしたんで、後を引いてなりゃあしないよ」
「弱ったなあ!」
法印、いが栗あたまを叩いたが、折角の、今夜の歓会を、このままには、彼自身も、どうもしがたい――物足りない。
考え込むのを見て、
「じゃあ、こうおしなさいよ。あたしはここで、錠を下されて小さくなっているから、そこまで行ってかせいでおいでなさいよ」
お初はそんなことをいい出した。
五
お初の気軽げな申しいでは、法印にも活路をあたえたように見えた。
「そうか、そうすりゃあ、これからおいらも、緩り飲めるというものだが、しかし、その留守に、おまはんに悪あがきをされると、ちっとばかし、困るからなあ」