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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
七
すると、思いがけなく柳かげから、
「太夫さん、何とまあ、素晴しいお手のうちじゃござんせんか!」
と、いう、若々しい、しかし、いくらか錆た声がいいかけて、はばからず歩み近づいた一人の男。
見れば、それは、黄昏どき、浪人者に難題をいいかけられた折、割ってはいった、あのいなせな、若衆だった。
「あなたは先き程の、――」
と、そういいながら雪之丞は、御高祖頭巾を取ろうとした。
七
雪之丞が、両手を膝のあたりまで垂れて、先き程、はからず難儀を救って貰った、礼を言おうとするのを、若い衆は押えて、
「何の、太夫、――お言葉に及びますものか、一寸一目見ただけでも、あの浪人者なんぞは、お前さんの、扇子がちょいと動きゃあ、咽喉笛に穴をあけて、引っくり返るのは、わかっていたが、人気渡世が、初の江戸下りに、血を流すのも、縁起がよくあるめえと、持って生れた、瘋癲根性――つい飛び出してしめえやした。あの野郎、ちっとばかし、威してやると、すっ飛んで行きやがった」
雪之丞は、べらべらと立て続けに喋舌りつづける、この吉原かぶりの、小粋な姿を、不思議そうに見つめるばかりだ。
――ほんに一たい、この御仁は、如何なるお人であるのだろう? 如何にもあの時の、わたしの構えは、あの刀が振り下ろされたら、躱したと見せて、咽喉元を、銀扇の要で、突き破ってやる