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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「どうぞ、ひとつお聴かせよ。流行の一中ぶしでもサ」
「まさか、この古寺で、そんなわけにもいくめえわサ。ときに、姐御、たまらねえ顔いろになったぜ――ほんのりと、目元が染って、薄ざくらだ。おいらももう少し若くって、たしなみがなかったら、只は置かなくなるぜ」
「まあ、うまいことばっかし――あたしなんざあ、もう散りかかった姥ざくら、見向きもしてくれる人はないと思っているよ。さあ、お坊さん、お酌、女のあたしが、一杯一杯のやりとりはきつすぎる――まあ、お重ねな」
すすめ上手に、いつか、法印、すっかり酔わされて、まるでうで蛸のようないろになってゆくばかりだ。
「ほんとにサ、お前さんもいい加減に毛を伸ばしなさいよ――そうしたら世間の女が、うっちゃっちゃあ置かないがね」
思い出したように、じっと見て言うお初の、色気のあること!
九
――ふうん、島抜け法印、いよいよべろべろになって行くよ――ざまあ見ろ。もう四、五杯も引っかけたら、泥のようになって、丸太ン棒のようにぶったおれてしまうに相違ない。
冷たく笑うのだが、美しいお初の唇にうかぶ、その嘲けりが、性根をすっかり乱してしまった法印には、心からの、うれしい笑がおとしか思われないのだ。