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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

、そのように驚き、狽て、芸人にも似合わしからぬ護り刀なぞ、ひねくるには及びませぬよ。は、は、は、は、は」

錆びた笑いに、一そう脅かされたように、右手を帯の間から出して、白い頬に持って行ったが、

「ほんに、恐れ入りました御眼力――いかにも、わたくしは、並み並みならぬ望みを持ちますもの――」

と、つつしんで言って、

「ところが、只今、うけたまわれば、人のいのちは、限りがあるものとのお言葉――では、わたくしは、望みを遂げませぬうちに、この世を去らねばならぬのでありましょうか?」

「そこまでは、わしにも言えぬ」

と皺枯れた声が、突き放すように言ったが、

「が、しかし、そなたの寿命ばかりではない。相手の寿命ということも考えねばならぬ」

「えッ! 相手の寿命?」

女形は、低く、激しく叫んだ。彼の、剃り痕の青い眉根がきゅッと釣って、美しい瞳が険しくきらめいた。

「左様、そなたは、大方、他人のいのちを狙うている――」

老人は落ち着いた調子で、つづけて、

「しかも、一人、二人のいのちではない――三人、四人、五人――あるいはそれ以上、その人々の中、手にかけぬうち失せるものがあったら、さぞ口惜しかろうが――」