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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
たとえ、おまはんが、天狗昇、飛び切りの術を心得ていたって、ここからそこまでは五間もある。飛びついて来る途中で、一度当ったが最後、はがねの板でも抜こうという、鉄砲玉が、おむかえにいくのだからね――雪さん、そんなへッぴり腰をして、鉄扇なんど振りまわすのは、やめたらどうだい? ええ、こう、そんな物は、捨てしまえと、言っているのに!」
紅い唇を、食い反らすようにお初は罵り続けた。
雪之丞は、しかし、別に、恐怖に度を失った容子はない。
彼はしずかに考える。
――なるほど、お初の申すとおりじゃ。こちらから、飛びかかって行ったところで、あの弾丸が迎えに来れば、途中で射ち仆されてしまうにきまっている。闇夜のつぶては避けようがあっても、まともに狙われた鉄砲では、どうしようもない。つねづね師から鉄砲で狙われたら、一がいに敵対しようとせず、策を以て対する外はないとうけたまわっていた――ここのことだ。
雪之丞は、どんなときも失わぬ、心の余裕を保っていた。
――それに、若し、あの女がわしをすぐに射ち殺すつもりなら、四の五の並べず、射ちかけて来るはずだ。それを、あんなにべらべらと、しゃべり立てているところを見ると、今、この場で、殺す気はないのであろう。