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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

どうせ、やくざ浪人、すぐ抜いて来るだろうが、そいつらあ、いい加減に、どこまでも、お初に、ぐッと引ッついて、逃がしちゃあいけねえぜ」

――お初! お杉!

同心の唇から漏れた、その名ほど、闇太郎をびっくりさせたものがあるであろうか!

さすがに、棒立ちになろうとしたが、じきにいつもの彼に帰って、捕物隊が、かたまって、こっちに目が無いのを幸いに、ぴたりと、つい其所の天水桶に吸いついてしまうと、夜の蝙蝠が、のぞいて見てもわからぬ程だ。

――じゃあ、あま、今日、古寺を抜けたうれしさに、のこのこ市中を歩きまわって、こいつ等に嗅ぎつけられたのだな。ふん、唐変木の、薄野呂のこいつ等だって、馬鹿にすりゃあ、とんだ目を見るものさ。だが、それにしても、こりゃあ、思いがけねえことが、耳にへえった、こいつ等のあとを慕えば、十に八、九、お初の奴のいどころが知れるだろう。そこには、必ず雪之丞が苦しめられているのだ――さむれえを仲間にしたというからにゃあ、こいつあ、いよいよ大事になった――何にしても、あいつ等のあとを跟けて――

闇太郎、羽織をぬいで、ふところに、頭に手拭をのせ、裾を割って、片ぱしょりにすると、急に、いつもの、身軽をきわめた姿となる。