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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

七

――雪之丞、何だってあんなにじっとしているんだろう?

と、闇太郎は、はがゆく呟いた。

――日ごろのあの男にも似合わねえが――もっとも、武芸という奴は、出来れば出来るほど、用心深いというから、荒立つことをして、毛を吹いて傷を求めるより、あとでしずかに手だてを凝らそうとしているのかも知れねえが――ええ! じれッてえなあ、こんなことなら、この俺も、どこかで短銃を盗んで来るんだッけ――これでも、二本差していた昔は、銃っぱらいじゃあ、ひけを取らねえ男だった――

お初の方では、細い、白魚にも似た人さし指を、曳金にチカリと掛けて、ちょいと雪之丞に狙いをつけながら、犠牲をじゃらす雌豹のように、

「どうでしょうねえ、太夫さん、親方さん、今、そこで、十八番の所作ごとを演って見て下さいと頼んだら、否やをおっしゃるでしょうかねえ? でも、鳴物もうたもないから、いけないというかしら――じゃあ、あたしの足の指に、つい泥が着いてしまったから、拭いて下さいと頼んだら、首を横におふんなさるでしょうかねえ? いいえ、あたしは、そんな失礼なことは言いません――あたしと一緒に、どうぞ、座敷へ上って下さいな。