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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

八

「歩くんだよ。生れぞくない――」

憎々しく浴びせかけて、お初は行手を顎で示した。

八

お初の持った短銃の銃口に追われるように、しんなりしたうしろ姿を見せて、縁側に上ってゆく雪之丞――

お初がふりかえって、門倉平馬が、啣えぎせるでいるのに、皮肉な、苦い言葉――

「ねえ、門倉さん、煙を輪に吹いて、ぼんやりしていないでさ。そこらに、ゴロゴロころがっている、河岸のまぐろの生きの悪いような先生方を、もう一度、息を吹っ返させてやったらどんなものだね――それでもみんな道場へかえりゃあ、先生だろうから。ほ、ほ、ほ、門弟衆に、見せてやりたいわね」

平馬は、唇をゆがめるようにして、煙を吐くと、荒っぽく、ぽんと雁首を灰吹きに叩きつけて、立ち上って、庭に下りようとする。

闇太郎、その方には、目もくれない、物蔭を放れると、本堂の裏手にまわって行ったが、あらび果てている戸じまり、別に工夫を要するでもなく、雨戸を外して、すうと、影のように中にはいる。

ジャリジャリと、塵埃が、一めんな廊下を、つたわってゆくと、お初の、例の、ねばっこいような、色気と皮肉とが、ちゃんぽんになっている声が、