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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
こうなると、長崎屋たちが、今更、値を下げて見たとて、恨みが晴れるものではない。
――やッつけろ! あの大問屋をやッつけろ! こんなに安い米が食えたのに、あいつ等が、それを食わせなかったのだ!
――ぶちこわせ! ぶちこわせ! 悪どい奴等を根だやしにしろ!
――やッつけろ! やッつけろ!
いつの世でも、リイダーはある。それに盲従する暴民はある――今や、彼等は、これまでの憤怒を晴らす、当然の機会を得たように、めいめいに起ち上った。
それに、裏長屋の軒並から――大江戸の隅の隅のどぶという、溝の近所から、急に発生き出した、毒虫のように、雲霞のように飛び出して来た。
男も、女も、老いたるも、稚なきものも――
みんなが、みんな、何か、桝や笊のようなものをつかんで、振り立てて、冬の宵の口を、大通りを目ざして、駆け出すのであった。
――どれほどでも、蔵にあるだけ奪ってやれ!
――これまで、高値で買わせられただけの損を、今夜一度に取りかえせ!
この騒ぎは、昨夜も、小さく起ったのであったが、検察の当局も見て見ぬふりをしたのであった。彼等とても、お蔭で、扶持米を切り替えるのに、大分損をしているのだから、恨みは、民衆と同じであった。