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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

長崎屋たちが、取締りを求めても、

「いや、当方では、言うまでもなく、十分に警戒する。騒ぎは今夜だけであろう。が、めいめいに、十分に気をつけるように――何しろ江戸には、何百万とない貧民がいるので、こちらの手でも、そう完全に押し伏せるわけにいかない」

こんなたよりない答えがあるだけだった。

大問屋すじでは、びくびくして、今夜、夜が深まるのを迎えていたが、案の定、第二夜の騒擾は昨夜に輪をかけたものだった。

薄暗い横町という横町から、貧しげな男女が、わめき立てながら押し寄せて来た。

――米をくれ、米をくれ、米をくれえ!

三

そうした市民どもの、荒くれたぶちこわしさわぎが、楽屋の雪之丞の耳に、今、あらためてはいったのだった。

彼はさらに――と、思い当ると、躊躇もなく、男衆にいいかけた。

「その押し入れの、下積みのつづらの中に、目立たない糸織縞の着物がありますから、黒繻子の帯を添えて出して見て下さい」

そして、着ていた舞台着の、帯紐を解きはじめた。

「え? 糸織りの縞物を? 何になさるんで!」

男衆は、異様な、のみこめぬというような目つきをした。

「何でもいいから、出して見て下さいよ」