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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
しかも、その群集を制するものが、殆どないのだ。
「騒ぐな! 退け! 騒ぐな! 退け!」
と、御用提灯を振り立てて、同心どもに率いられた下役が、棒を突き立てているが、その人々は、群集とは、かなり距離がへだっている。彼等も亦、心の中では、このぶちこわしを、無理もないことと、思っているに相違ない。
雪之丞は、群集とは反対に、問屋の内部を覗こうと、右にまわって行った。家内に、何となしに、いい争うような声が聞えるように思われたのだ。
右手の、隣家の土蔵との庇間から、すべり入って、暗がりを、境の板塀を刎ね越すと、奥庭――この辺によくある、大店の空家を買って、そのまま、米問屋をはじめたわけなので、なかなか凝った茶庭になっていたが、大きな木斛の木かげから、じっと見ると、奥座敷では、今は浅間しく取り乱した、長崎屋が、着物の前もはだからせて、立ち上って、何か大ごえで騒ぐのを、左右から、二人の番頭が取りすがるように、前には、雪之丞、見覚えの武家が、立ちふさがっているのが見える。
武家は、長崎以来、長崎屋等と、悪因縁を持つ、浜川平之進にまぎれもなかった。
「もう滅茶滅茶だ! 滅茶滅茶だ! 畜生! 役人さえ、あぶれ者の味方なのだ――見ろ! 聴け! 空地に建てならべた米庫を、あいつ等は荒しているのだ。