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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
大手をふって盗みをはたらいているのだ――それなのに止めようとするものがない。見世の手代、小僧、みんな逃げて行って、誰も防ぐものはない――ああ、滅茶滅茶だ! これというのも、みんな、あの広海屋の畜生のなせるわざ――あいつを、取り殺す! 食い殺す! さあ、放せ! おれはこれから竜閑町の、あいつの家へ行って来る――あいつの咽喉ぶえを食い破ってやる――」
燭台の赤茶けた燭の火を宿す、血ばしった目つきの怖ろしさ――それを鎮めようと、浜川が、
「ま、下にいなされ! そう狂っては、却ってお身の不為――あぶれ者の目にも触れなば、いのちがござらぬぞ」
五
哮り狂う長崎屋の形相は、いよいよ物すごく歪むばかりだ。
「いえいえ浜川さん、おはなし下さい。わしはもう、腹にも、肝にも据えかねた。あの憎らしい広海屋を目の前に、いってやる――呪ってやる――肉を食らってやる――そうせずには置かれませぬ。元――元をただせば、わしの助けがあったればこそ、傾いた広海屋が、松浦屋を破滅させて、独り栄えることが出来たのだ――それは、浜川さん、あなたがよく知っているはずではないか――さ、はなして下さい、遣って下さい」