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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
雪之丞は、影のように、ぴったりと、彼にくいついている。
とは、流石に知らぬ、長崎屋、浜川が、露地を出て、かごに乗ったのを見ると、ニタリと、白い歯をあらわして、闇に笑って、
「ふうむ、広海屋に先ばしりをして、告げ事をしようというのだな! おのれ、にくい奴だ!」
――だが、何の!
と、いうように、忽ち、ぐるりと、尻をはしょると、目あての、竜閑町を差して、これは細い抜け道から、抜け道を、夜のけもののようなすばやさで、走り出した。
なるほど、辻かごが、どんなにいそいでも、抜け裏から抜け裏を、駆け抜けたら、この方が、早いにきまっているのだ。
――どうするつもりか?
雪之丞、小褄も、ちらほらと、踏み乱して、軒下から軒下、露地から露地を、目の前を翔りゆく、黒い影をひた慕いに慕う。
とうとう出たのは、掘割を、前にひかえた、立派な角店、――総檜の土蔵づくり、金看板を夜中ながらわざと下ろさず、堂々と威を張っているのが、いわずと知れた広海屋の本店だ。
その前まで来て、白く光る目で、あたりを見まわすようにした長崎屋――
「そうら、見ろ、こっちが早かった!」
もう一度、じろりと眺めて、見つけた天水桶――黒く、太ぶりなのが、二ツ並んだ間に、犬のように潜ぐり込んだ。