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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
九
九
放けたな! 火を! 点したな! 火を! ほ、ほ、ほ!
さすがに、雪之丞、家内から洩れる炎のいろ、爆ぜ燃えるひびきを感じとると、胸が躍った。その業火は、いよいよ彼の一生の悲願が成就する、幸先を祝った篝火のようにも思われるのだ。
退って、例の河岸の空荷を積んだ物影に立って、なおも、成りゆきをみつめていると、だしぬけに、横手の塀を、ムクムクと、乗り越えて来る、黒い人影――
瞳を定めると、人を殺し、火を放って、しかもうまく、現場の混雑に乗じて、逃げおおせた長崎屋三郎兵衛の、浅間しい狂いすがただ。
その三郎兵衛、ふところに、妙なかたまりのようなものを、しっかと抱いたまま、一さんに、河岸まで来た。雪之丞の近くで、立ち止まって、その抱きしめたものを、両手でかざすようにしたが、
「ほ! こりゃどうじゃ! 死んだかな? 死にはすまい? たった今まで、おぎゃおぎゃいっていたんだ――おい、目をさませ! 赤んぼめ!」
ハッとして、雪之丞は、目をみはった。思いがけなや、何と、それは、やッと当歳か、それとも生れて年を重ねたばかりのむつき児なのだ。
三郎兵衛は、ようやくにして、屋根廂のあわいから、赤黒い火焔の渦を吐き出しはじめた広海屋の方をも、突如として起ったあたりの騒擾をも、見向きもせず、