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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「ふ、ふ、ふ、あの馬鹿乳母め――火事と聴いて、動顛しくさって、店の者と間違ったか、このおれの手に、広海屋が六十の声を聴いて、やっと出来た一つぶ種――あの若い後妻に生ませた大事な赤児を、うまうま渡して行きゃあがった。広海屋を殺れなかったのは、残念だが、これは、いいものが手にはいったわい――と、思って、盗んで来たが、死なせてしまっては仕方がない――」
と、独り言――ここまでは大分正気らしかったが、やがて、また、異常な笑いを笑って、
「ヒ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒ! これ赤児! きさまは、やっぱり、あの後妻の、間男の子でもなかったな――似ているぞ、広海屋に――あの与平の奴に――おや、何だって、友だちでも、仲間でも、商いの道は別だって――商人は、商いの道で戦うのだって? 長崎屋、つぶれて消えろ――だって? よくもいったな! が、まあ見ろ、おぬしの家も店も、そうら、あの通りの大火事だ! ヒ、ヒ、ヒ、あれをよく見ながら、畜生! おのれ、冥途へゆけ!」
気を失っている赤んぼの、咽喉を絞めかける三郎兵衛――
雪之丞は、思わず、それへ飛び出して、長崎屋の腕の中から、あわれな、肉のかたまりを引ッたくった。