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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
万一、坊やが、火に焼かれて死にでもしたら、あたしは、恨みます。お前をうらみますぞえ――お前が、何もかも悪いのじゃ――坊やが、若しもいなくなってしまったら、どうしよう! どうしよう!」
――うわあ! うわあ!
と、とりみだして、泣き叫ぶ内儀のすがたは、いじらしさの限りだ。
「ま、落ちつけ! 居ないはずはない! これ、みんな、火事なぞどうでもいい! 坊を探してくれ、坊を抱いて見えなくなった男を探してくれ!」
広海屋は、とりすがる女房を、突きはなしも兼ねて、呼びつづけるのだった。
一四
広海屋、その人までが、わが子の失踪に、平生の落ちつきをなくして、何やら、荒々しく、癇癪ごえで叫び立てているのだ。暗い予感が当って、ことによれば、二度と可愛い顔が、見られなくなったかも知れぬと知った、内儀、もはや、真正の気違いだ。
彼女は、立ち上って、髪をふりみだし、目をいからせて、これも気も狂わんばかりの、乳母を目がけて、つかみかかるようにして行くのだ。
「これ、お種! あの子をどこへやった! 坊やをどこへやった! 誰に渡した! お種、さ、言っておくれ! 早く言っておくれ! さては、お前、日ごろ、あんなに目をかけていたのを忘れて、坊やを、火の中へ置き逃げして来たのだな! 焼き殺してしまったのだな!」