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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一六

広海屋は、恐怖の声をふりしぼって、

「さては、おのれ、浜川さまを手にかけた上、この家に、火を放けたも、われだな!」

「う、ふ、ふ、いかにも、おれじゃ、長崎屋じゃ――な、わかったか? 業を積みおって、今更何を! ふ、ふ、ふ――わしが、人を殺したれば、どうじゃというのだ? 火を放ければ、どうじゃというのだ? それよりも、いのちよりも家庫よりも、おぬしには、もっと大事そうな、あの、やにッこい生きもの――一つぶ種――あれが、ほしゅうはないかい? これ広海屋、ほしゅうはないかい?」

と、嘲り叫ぶ。

「おのれ、憎さも憎し――それ、みんな、こやつをからめ取って、さんざんに打った上、お役人に突き出せ!」

広海屋が、おめくのを、妻女が、泣きながら、押しとどめて、

「まあ、あなた、しずまって下さいまし、みんなも手出しはなりませぬぞ」

と、いって、長崎屋の前に、地べたにひざまずいて、

「これ、長崎屋さま、三郎兵衛さま――どんな恨みが、主にはあるかも知れねど、赤子には、罪というてあるはずはなし、どうぞ、お腹が癒えるよう、わたしの身を存分になされて、あの子だけは返して下さるよう――お返し下さるよう――」