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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一八

「こいつは、お見それいたしやした。長崎屋の旦那でごぜえますね。あっしは、鳶の、八と申しやすが、どうも、大した御機嫌さんで――」

一八

いなせに、腰低く、べらべらと並べ立てて近づく鳶の者、片手に、こぶしを固めて、いざと言わば、張り倒そうとしているのだが、気の上ずった、心の狂った長崎屋には、それが、気取れない。

釣り込まれたように、血まみれの短刀を持った手をぶらりと下げたまま、額を突き出すようにして、

「おや、おまえさんは? とんと、見馴れない人だが――」

と、うっとり言う。

若者は追従笑いをして、

「それは旦那、あっし達は、吹けば飛ぶ、どぶ浚い、あなたさんは江戸で名高い大商人、あッしの方では、そりゃあもう、御存知申上げておりますんで――」

と、いって、ますます近づいて、さすが、大胆者、長崎屋の短刀を持った方の手の二の腕を、やんわり、いつか、つかんでしまって、

「ねえ旦那、今夜はお騒々しいことで、さぞ、お疲れになりましたろう――さあ、あちらで、御休息の用意がしてありやすから、お供を申しやしょう」

妙なもので、狂暴な、けだもののようでもあれば、また、無邪気な子供のようでもある、俄か気違い、たちまち、