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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「おお、そうか? なるほど、咽喉もかわいたし、足もくたびれた。じゃあ、一つ、御造作になろうかな?」
と、曳かれるままに、立ち並んだ、いろは蔵の方へ歩き出す。
その三郎兵衛が、たしかに、塗り込めの中に、封じ込まれたとまで、血走った目で見届けた広海屋与平――
「ざまを見ろ! 人殺し! 火放け! かどわかし!」
と、噛みしめた歯の間から、うめくように叫んだが、
「よいか、みんな、あいつを蔵から出すことではないぞ! 坊やがかえるまで、あいつを出すことじゃあない――いいえ、坊やがかえっても、あいつだけは、あそこから外へ出してはならぬ。このわしが、成敗してやる。何という人鬼だ!」
「わああ! かなしいのう! かなしいのう! わああ! わああ!」
と、いまだに、地にまろび伏して、泣きわめく女房――
広海屋は、そのあわれなすがたを、今は、腹立たしげに、睨めつけて、足をあげて、蹴とばしもしかねぬ形相――
「うるさい! そなたが、わめかずとも、わしの心まで、狂いみだれてしまいそうじゃ――坊の行方は知っての通り、多くの人たちに頼んで、探し求めているではないか――殺されていない限り、天にかけり、地に潜っても、かならず、見つけ出さずには置かぬのじゃ。