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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

だ。

通されると、閾の外に、小さくなって、節くれ立った手を突いて、オドオドと、辞儀を申し述べる。

「もう、わたくしも、おふくろも、毎日、毎晩、御機嫌をうかがわなければならないのでござりまするが、何分とも、松枝町のお屋敷の方が、絶えず、目をつけて、おいでなされますので、うっかり、こちらへ足を向けましたら、一大事と、つつしまねばなりませぬので――」

「では、まだ、松枝町では、おまえたち母子を、うたがっているのかえ?」

「はい、お行方をかくされましてから、何度も何度も、お呼びだし、おどしつ、すかしつのお尋ねでござりましたが、口を割りませなんだで、どうやら、御嫌疑も晴れたようでござりますが、それでもまだ、油断がならず、ときどき、不思議な風体のものが、うちの近所を、うろうろいたしておりますので――」

「それは、さぞ、気色のわるいことであろう――みんな、わたしの罪、お気の毒でなりませぬ」

「いえいえ、左様なことはござりませぬが――実は、今晩、人目を忍んで、上りましたのは――」

と、いいかけて、甚太郎は口ごもる。

「え! 何か、特別な、用事ばし出来まして?」

と、浪路がみつめる。