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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
六
と、いっているうちに、狂恋の情が抑えられなくなったように、
「甚太郎、明日といわず、今夜これから、案内してはくれぬであろうか?」
六
浪路の狂熱は、遂げられぬおのが願望について、くり言をしているうちに、ますます煽られて来るのであった。
彼女は、もう、どうにもおのれを抑えることが出来なくなったように見えた。
「ねえ、わたしを、宿屋の入口まで、案内してたも――わたしはどうあッても、雪どのに逢いたい。逢わねば、もはや、生きる気もない。のう、甚太郎、あわれと思わば、何とかしてたもれ――のう、甚太郎――そなたと、わたしとは、言わば、乳兄妹ではないか――そして、わたしのためなら、どんなことでもしてくれると、たった今、言ってくれたではないか――」
甚太郎は、とんだ破目になったというように、うつむいて、膝に載せた、わが手の指をみつめるようにしたまま、頓には答えることも出来ない。
浪路は、あせりにあせって、
「それとも厭と、お言いか? 厭とおいやるなら、強いては頼まぬ――広いとて、江戸の中なら、わたし一人でも、よも、尋ねあたらぬことはあるまい」
きッと、睨めすえるようにして、言い放つ、浪路の目つきに触れると、甚太郎は、竦然と、肌が、粟立つのをすらおぼえるのだ――